清原絵画教室のブログ

神戸で絵画を学ぶ。初心者からプロまで。

2011年11月

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今日は「新型徐行描き」について解説します。

このメソッドを作ってから3年以上経ちますからちっとも新しくありませんし、ゆっくり描くわけじゃないから「徐行」でもありません。ですからこの名前は正しくないのですが、徐行描きの次のプログラムという意味で分かりやすいので、便宜上このネーミングを使っています。
しかし「徐行描き」と「新型徐行描き」には、明確に異なる点があります。

「徐行描き」は、「物をよく観察して描くこと」と、「ていねいに描くこと」の重要性を理解し、それらを習得する目的のプログラムです。

それに対して「新型徐行描き」は、「えんぴつをたくさん動かすこと」と、「ひっきりなしに修正・加工をくり返すこと」を身につけるのが目的です。

「徐行描き」で身につけたことを実際的レベルに落とし込むために、「徐行描き」で厳密に守っていたポイントをゆるめながら、新たに守るべきことを加えて取り組みます。


写真は、新型徐行描きで左から順に描いていったものです。

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では、この写真モチーフを使って新型徐行描きの描き方を、次の記事でご説明いたしましょう。

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「新型徐行描き」には、おのずと「徐行描き」とは異なるルールがあります。目的が違うので当然です。

写真は、「新型徐行描き」の描き始めです。

「徐行描き」ではとてもゆっくり描きますが、「新型―」ではさほど遅く描くことは要求されません。

私が一生「徐行描き」で描け、と言われたら辛くて絵をやめるでしょう。「徐行描き」で習得したものを実用的なレベルに落とし込まないと、使い物になりません。

しかしたとえ実用的でないにしても、「徐行描き」は絵にとって大切なことに気づく、非常に有意義な取り組みなのです。

自動車教習所では、低速の運転を徹底的に習います。発進、停止、クランク、縦列駐車、方向転換など。

確かにローギヤだけで走れと言われたら、車の運転はいやになるかもしれません。

しかし高速道路をすいすい走れても、低速で走ることがうまくいかなければ、車の運転そのものがうまくいかないでしょう。低速走行の能力が、車の運転の楽しさに比例しているだろうと私は思います。

ですから「徐行描き」は非常にパワフルな武器となります。

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さて、そういうわけで「新型―」では、もう少し早く、いわばスラスラと描いていきます。

そしてさらに「徐行描き」で禁止されていた2つの事が許されます。

1つは「見えない線を描かない」。

2つ目は「二重描きをしない」。

これらが許されます。
その代り今度は目の前のモチーフに似させるよう、正しい線が描けるまで何度も線を描きなおすことが課せられます。消しゴムで消すことは禁止されます。
1回の線で正しい線が描けるはずがないのです。狂ってて当たり前。間違ってても臆することなく描くことを身につけていきます。
今度は正しい線が描けるまで何度も修正しないといけません。皆さんが大好きな、「モチーフに似させる」ということを、ここで徹底していくのです。何しろそんなにかんたんに正しく描けるわけはないのですから。
しかしそうすると、正しく描けているかどうかを自ら判断する力も必要とされるのです。自分で自分の線が正しいのか見極め、正す判断能力。ではそれを可能にするための第一要件は何でしょう。

それはものをよく観察する力です。

徐行描きで培った力を使わないと、「新型―」はうまくできないのです。

もし「新型―」で行き詰っているとすれば、「徐行描き」を十分にはマスターしていなかったのです。

そして「新型―」では、最後まで一筆描きを続けます。そうして鉛筆を動かし続けることと、たくさん鉛筆を入れて真っ黒にしていくことに慣れていきます。

以上が「新型徐行描き」のセオリーです。

「新型徐行描き」の指導プログラムは今のところ、「徐行描き」ほど整備・洗練されていませんが、「徐行描き」の「強制ギプス」をはずし、実際に楽に適用できるようにする有効なリハビリとして機能しています。これからも改良を加えながら、徐行描きと同じか、それ以上の重要なステップになっていくと思います。

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この写真の作例は、「新型徐行描き」ではありません。

新型徐行描きで描いたものの上に、鉛筆の描きこみをいれています。

「新型徐行描き」の延長上に、陰影、調子を盛り込んでフォルムを描写していく、狭義の「デッサン」と呼ばれているメソッドがあるわけです。

このように観察を重視したメソッドは、新聞記者やノンフィクションライターが取材を重んじるのと同様のリアリティをデッサンに与えます。部屋に閉じこもって机上の空論をもてあそぶ前に、現実を見ることを大切にせよ、ということです。

解剖学的なハンドブック(人物だけでなく、静物、風景、なんでも。書店に並んでいるノウハウ本の多くは、事物をどう見立てるか、どう解釈するか、事物の本質を解剖して説明するという文脈で書かれています)を参照するだけでは不十分です。

「絵画技術とは、アウトプット術である前にインプット術である」―by清原健彦

私はそう思います。

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