ジェリコーを参照するまでもなく、ロマン主義は古典主義・教条主義に反旗を翻し、社会秩序の外側への脱出を図るものでした。そしてそれは近代芸術の土台を築きました。我々は教室を一隻の船と見立て、社会からの離脱を図るとともに、社会への帰還をも目論みます。絵画作家の動機は、近年隆盛を極めるパブリックアートのそれとは一線を画すべきだと思っています。社会と芸術は対立構造にあります。
ジェリコー解説記事:http://www.salvastyle.com/menu_romantic/gericault.html
ロマン主義解説記事:https://biz.trans-suite.jp/34656
THE SHIP 1

案内状のための下絵として、苦難や宿命に身をさらし前進する向こう見ずな集団のイメージを探りました。この習作を描いたあと、本画として「THE SHIP 2」を描いたのですが、最終的にはこちらを案内状用に採用しました。静的な古典派的秩序への志向と、動的なロマン派的流動への希求がせめぎ合っていて、粗削りなところが特長だと思っています。
THE SHIP 2
案内状用の習作THE SHIP1を受け継ぐ「本画」として描きましたが、最終的にはその座を「1」に譲り渡しました。わが心の師匠ジョルジョ・デ・キリコの形而上絵画にたびたび登場するアイテム、「悲劇的な空」、「はるか上空にたなびく旗」、「古典的秩序に由来する静止性」、「強い緑とオレンジと純白の対比による地中海的な雰囲気」、「謎めいた雰囲気」を組み合わせ、神秘を暗示しようと試みました。完成した絵には静止性と謎がにじみ出ており、キリコに近い絵になりました。しかし案内状には英雄的なオデッセイ(=長い冒険旅行)の雰囲気がほしいと感じ、ゆえにもう少しガッツあふれる「1」を採用しました。
ところで、これを描きながら脳裏に去来した映像があります。この絵は何かに似てる、あれだ、今からおよそ5年前の2015年1月20日に発表された、過激派組織ISILによる禍々しい映像。印象的な青空を背景に中央に黒いテロリストが立ち、左右にオレンジ色の人質を座らせ、恐れを抱かせ、屈服をあおるよう計算された構図がいかにも小賢しく、妖術のように美術を使うやり方。ああいうのを噴飯ものと呼ぼう、と思いました。
彼と同一視するなかれ、我は妖術を解く者なり。そう心に決めます。
THE SHIP 3
清原絵画教室のロゴマーク用に、1年前に描いた絵です。
オデッセイ2020(共同画原画)
不吉な宿命を引き受け、立ち向かう英雄的な世界を描こうと思いました。
船が向かうのは島らしき陸地で、バベルの塔のような圧倒的な断崖、神殿、敵対者、歓迎する者たち、攻撃、祝祭が混沌の中に融合しています。海には圧倒的な水圧、理解不能な魔物がうごめいていますが、同時に魅惑に満ちており、誘惑に負けた者は歓喜とともに深海の底に引きずり込まれます。
そんな物語を想像しながら、しかし標準的なな近代芸術の作法に従い、物語の説明を抑制するように描きました。物語性が出過ぎるとそれを打ち消し、非具象化するという行為を繰り返し、果ては描画した紙を分解して組み換え、接合しなおす始末。そのようにして、船の向かう先、船が接している世界は、人智を超えた、おそろしくも魅力的な領域であることを模索しました。解説するとそういうことになりますが、説明ぬきに素朴に物語を楽しんでいただければさいわいです。
第17回清原絵画教室展
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